古谷実『ヒメアノ〜ル』を読んだ。平凡な人生の幸せさ

漫画『ヒメアノ〜ル』を読んだ。

古谷実作品を読むのは、これが初めてだった。

 

映画『ヒミズ』は見たことがあるけど、それくらいでしか接したことがなかった古谷実作品。

ギャグ漫画家としてデビューしたらしいけど、その後シリアスな内容の作品を連載していたりと、どんな漫画家さんなのかがよくわからないからと読んでこなかった。

 

漫画をあまり読まずに育ってきたけど、大人になってから面白い人だなと思った人たちには、共通点としてほぼ例外なく、漫画をたくさん読んでいることが挙げられそう。

それからは、何かしらのきっかけで気になった漫画を読むようにちょっとだけ心掛けてる。

 

学校で教わることもなければ、普通に生きている中でなかなか経験しない感情は、漫画や映画なんかのカルチャーが教えてくれるのかもしれないと思うようになった。

 

古谷実作品は、何かのきっかけで山田孝之のWikipediaか何かを見てたとき、生涯ナンバーワンの漫画として『シガテラ』を挙げていたのを見て買った。

 

でも買っちゃうといつでも読めるからって、買ってから半年は経っただろうけどシガテラは未だに読んでない。

最近どっかで古谷実って名前を耳にして、そういえばひとつくらい作品を読んでみたい、と思って手に取ったのが『ヒメアノ〜ル』

 

タイムリミットがあった方が読みそうだから、TSUTAYAでレンタルしてみた。

レンタル期間が1週間なので、返却までに間に合うようにと読んでみたら、奇妙な内容だけど面白かった。

 

20代の冴えない男が主人公の物語。

起きて仕事に行って、飯食って寝ての平凡な毎日に飽き飽きしている主人公。

このままの生活が一生続くのか、と人生に退屈を感じた主人公は、これまで話したことのなかった職場の先輩に話しかけてみる。

 

そこから展開する、先輩や身の回りの登場人物の生活に触れながら、平凡だけど少し奇妙なそれぞれの人生、生活を覗く物語。

 

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平凡な人生の幸せさ

職場の先輩の生活に触れるようになると、主人公の生きる世界はぐっと広がって賑やかになってくる。

先輩が恋しているカフェの店員さんと、色々ありつつも付き合ったり、その彼女を殺したい (!)と思っている殺人鬼が実は高校の同級生だったり。

 

恋をすると小さなことで一喜一憂してしまい、精神がズタボロになる先輩。

我こそ世界に革命を起こすと豪語している、職場の新人。

人を殺すことに快楽を感じている殺人鬼。

その殺人鬼に殺されてしまった人たち。

 

どこを切り取っても、ごく普通に生活をしている人間の、どこまでも日常と地続きの描写が続く。

殺人鬼なんかが出てくるけど、それを含めても読んでいる自分の生活にも隣り合わせで、明日にでも起こりそうなことばかり。

 

みんな退屈な毎日に飽き飽きしていて、それゆえにそんな日々をひっくり返せそうな刺激を求め続けている。

殺人鬼も刺激を求めて殺人を繰り返す、という心情描写。

 

何もしていないからだけど、何も起こらない生活に退屈を感じていた自分も、読み進めながら、どんな刺激的な展開があるんだろう、と楽しみにしてた。

しかし描かれるのは、あくまで生活と地続きの物語。

 

登場人物が誰かに恋をしてみたり、たまたま殺人鬼の視点を覗いたり、そんな人物が身近に存在してしまうということ以外は、ごく平凡な毎日の物語。

刺激を求めていたって、突然人生が楽しくなるような大イベントは、そうそう起こるものじゃないと、これまで薄々思っていたことに確信を抱いたように思った。

 

自分の場合は、何か新しいことを始めるとき、覚えようとしているときには、普段の慣れきった生活にはない刺激を感じる。

ただ、それも慣れてしまえばルーティーンとなり、生活の一部となる。

慣れてしまえば刺激もなく、またしても退屈な毎日の繰り返しが続いていくだけになる。

 

そうやって刺激にも慣れきって退屈にかわることを思えば、人生はいつでもその繰り返しでしかない気もしてくる。

 

劇的な変化を求めるけど、人生が逆転するようなイベントなんてそう起こらなくて、毎日は地続きな小さな生活の連続でしかない。

実はなんでもない毎日こそが幸せで、求めなくても既に手元にあるものだということにも気付く。

 

大したことなんか起こらなくても平凡な状態でいられること、それ自体が何より幸せなことなんじゃないか、と考えさせられる作品だった。

自分の人生って退屈なのかもしれない、とか再び思い始めたときなんかには、この作品をまた読み直したい。

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いわはし

いわはし

もうすぐ30歳になるので、うかうかしていられません。

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